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【野原工芸に学ぶブランディングの本質とは?】人気のボールペン・黒柿ロータリーが約5ヶ月待ちで届きました。(開封動画付)

清秋の候、いかがお過ごしでしょうか。

厳しい夏が過ぎても例年より暑い日が続きましたが、それでも気候は穏やかになりつつあり芸術の秋、で創作活動も自然と意欲が出てくるのではないでしょうか?

ということで、今回は執筆活動には欠かせないとなった私どもの書斎の新入りペンのご紹介。

今年の5月に野原工芸さんの木軸ボールペンをオンラインストアの予約注文で購入したボールペン・ロータリー(回転繰り出し式のペン先)黒柿がようやく到着したのです。

野原工芸さんはしーさーさんをはじめyoutuberさんがシャーペンやボールペンを紹介して話題なのですでにご存知の方も多いかもしれませんが、下は小学生から上は高齢者の方まで幅広い世代で人気の木工品伝統工芸のブランドです。

歴史を調べさせていただくと、古くは平安時代より続く伝統を木地師とよばれる職人さん達が現代に受け継ぎ、南木曾ろくろ細工を生業とされているようです。その南木曾ろくろ細工はというと、18世紀に誕生した長野県木曽郡南木曽町周辺で作られている木工品で国の伝統工芸品にもなっているとか。

野原工芸さんの製品はペン以外にもあるようですが、野原工芸3代目の野原廣平さんが1998年当時物が売れなくなってきたことも背景にあり、副業でペンをつくることにしたのが始まりだそうです。

購入の背景

私の場合は、2021年ごろにコロナで世の中巣ごもりの風潮の中ご多分に漏れず書斎にいることが増えたのもあり、気分転換にペンでも新調しようかなと物色しているときにその存在を知ったような記憶があります。そのときにはまだ私の中では木軸ペンという選択肢がなかったので候補には挙がりませんでしたが、youtubeやSNSというのは一度クリックするとどんどん関連動画が目に入ってきますし、頭の片隅に残っていたのでしょう。ここ数年で色んな人が絶賛のレビューをしているのを見ていたし、なんだったらフリマでの中古品価格が高騰しているのもあり、“今の人の心に刺さる何か”に触れてみようと思って予約購入をしたのが今年の5月ということです。とはいっても、野原工芸の魅力は?を客観的にまとめただけでは今の、それからこれからの時代、ChatGPTやGensparkなどのAIには到底及びませんので、あくまで私個人が実際に製品を手にしたときに感じた主観を交えたもので参考にしていただけたらと思います。

注文の際の案内で届く時期は10月中旬から下旬ということだったので、「え?半年も待てるかな?」と思いましたが、その10月に入って到着しました。

開封動画

ということで、ドーパミンが過剰分泌気味で恐縮ですが、開封の瞬間を動画に収めてしまったのでシェアします。

クリックすると動画が見れます。

クリックすると動画が見れます。

正直、開封の瞬間は絶句でした。

感想

すでに評判なのでいいのは分かっていましたが、それでも箱から出てくるときに放たれた艶光りというか、その理由は分かりませんが、ある種の神々しさすら感じたものです。約5ヶ月待ちはかえってその間、ワクワク感を持つことができたし「待った甲斐のある」いい期間になったことは言うまでもありません。

さて、冒頭で述べさせていただいたように、「今の人の心に刺さる何か」を自分なりに考えました。

魅力①プロダクト面

機能性と芸術性の両立

本記事ではペンの構造などの蘊蓄などは述べるつもりはありません。(そもそも、論評できるほどの知見もありません)

しかしながら、野原工芸さんの製品に触れてみて最初は絶句した、と言いましたがちょっと冷静になってその魅力を一言で言うことが許されるならば、ペンとしての機能性と木地師さんの職人芸術を兼ね備えたデザイン、なんだと思います。ペンといういつも使うものを通じて木地師さんたちの伝統的な職人芸術に触れることができ、私たちの日常に新鮮な味わいをもたらしてくれるというか、筆記という何気ない作業でさえもとてもリッチな気分にさせてくれるというところに価値があるんだと思います。

外観、感触

シャーペン、ボールペン、など他のラインナップは私も使ったことがないので分かりませんが、このボールペン・ロータリーに限って感じたことをいいますと、大きさ、重さも、重心の位置も、そして木の手触りもいわゆる心地のいい感じで持っていて疲れませんし、それよりも木の温もりというかいわゆる金属や樹脂でできた工業製品にはない、癒やされるという感じもあります。ノック式ではなく回転繰り出し式ですので、その分、全長が短くなり、他のレインナップよりも手にコンパクトに収まるんじゃないなと思います。

特筆すべきところは、やはり世界で唯一無二の自然が織り成す杢目かなと思います。どんな木だろうと同じ形が現れることはありませんから、多様性、個客化の今の時代の人の心を掴むには大切な要素ですね。こちらも、人間が人工的に意匠をデザインすることはできない自然美がペンという身近なところでいつも触れて、見て、香ることができるので、IT機器、ガジェットに囲まれた生活を送る現代の人にとってはこのあたりもかなり重要な要素だと思いますね。その流線型のボディ、杢目の自然美を観賞しているだけでマインドフルネスになる、というような方もいらっしゃるかと思います。

書き心地

流線型のボディが人間工学に基づいているのか、木軸が肌に心地よく手にフィットします。いわゆる、重さ、大きさが合わなかったり、重心の位置が微妙だったり、素材が硬い金属や樹脂だと長時間使用していたりしていると疲れたり、場合によっては疲れてきたりもするでしょう。長時間筆記をすることはほぼない私ですので、気にしない方ですけれども、例えば学生さんや事務仕事をしていていつもペンと隣り合わせの人には流線型の木軸はいいんじゃないでしょうか。

また、初期レフィルはSCHMIDT easyFLOW 9000 Mで書き味もなめらか。替え芯は世界に普及しているG2規格で対応できますので、ジェットストリーム用リフィル SXR-600 シリーズなんかも使えますし汎用性も高いと言えるでしょう。また、ペン先もガタつかず安定した書き心地ですし、ペン先を出すとき多少の重みがありつつもなめらかで静かにペン先が出てくるのが上品でとにかく気持ちいい。私は気にしたことがないのですがペンノックのカチャカチャとする音がイヤな人、それからその音がマナー上好ましくないようなフォーマルな場所で使う人にとっては無音の回転繰り出し式というのもいいかもしれませんね。

黒柿という木材

私の場合、木軸に黒柿を選びましたが、野原工芸さんのオンラインストアの商品紹介も、こんな言われ方したらどうしても欲しくなるだろう(笑)という情報を端的に表現されている気がします。

特徴

通常の柿は木目のない真白な木肌で俗に『白柿』と呼ばれており、小口径でねじれもひどいため使いにくく材料として価値のない物なのだが、極々稀(1万本に1本とも言われている)に黒い縞の入った『黒柿』が発見され、珍重されてきた。(立っている柿の木の外見から白柿か黒柿かの区別は全くつかない)
国産材の中で最も希少な最高級木材で世界的にも貴重かつ珍重されている銘木中の銘木。
正倉院の木工品にも多数の黒柿が使われいたり、茶道具としても最高級品にかぞえられており、昔から珍重されている。
その独特の美しい縞模様は黒柿のもつ油分により使い込む程に深みのある色艶へ変化していき、まさに最高級品と言うにふさわしい風格をもつようになる。

用途

和家具や床柱、建築用装飾材、茶道具等に使われる。

引用/野原工芸 オンラインストア 黒柿のページ https://store.nohara.jp/products/bp03kaki

ちなみに、黒柿は野原工芸のペンの中でも1,2位を争うくらい人気なのだそうですがビジネスシーンでも使いたいのでロータリーを選んでいます。パーツはゴールド、シルバー選べたのですが、金色のパーツも黒にマッチしていてシックさとリッチさを兼ね備えているように思いますし、自分的にはこちらがよかったかなと。パッケージについているのは木のメンテナンスオイルでちょくちょくこれで拭いてあげるとキープシャイニングできるそうです。経年で艶が変化していくのを見ていくのもこれから楽しみです。

正倉院の木工品にも使われている、なんてこと言われますと、ちょうど今の時期は正倉院展なども催されているし、古い宝物が経年でどのように変化しているのかふと観に行きたくなりました。

魅力②ブランディング/マーケティング面

流通と販売のチャネル

野原工芸のペンは入手困難です。だからこそ、欲しくなるという心理はどうしても働きます。

野原工芸さん、数少ない工芸職人さんの手づくりである以上、大量生産、大量販売というわけにもいかないでしょうし流通販路も限られることは想像ができます。実際、本店とオンラインストア以外で正規新品を買える経路がありませんので、販売チャネルが絞られていますが、かえってそれがブランディングを後押ししていると思います。

伝統技術の水平展開

野原工芸さんのペンが知られ、人気が出始めたのが三代目野原廣平さんが1998年からペンづくりを始めて10年以上経過した2010年代で、youtuberなどの紹介で2019年くらいから今のような火がついたようです。1998年頃といえば、国内では日本の伝統工芸品は低迷していた時代です。やはり、経営的にも苦しかったでしょうし、その歩みには大変な時間と労力を重ねられたことも想像に難くありません。

そこに来て上記のyoutube動画でも話されていますが、三代目野原廣平さんが物が売れなくなってきたのでペンづくりを副業に始めた、という言葉と、廣平さんの奥様が「あの人(廣平さん)らしいな。もともと手の中に入るものをつくりたがっていた」とおっしゃっていますが、やはり優れた伝統技術を私たちの生活で最も親しまれ、そしてよく使われ、持ち運ばれるもののひとつであるペンという分野に水平展開したというのが妙手になったのでしょう。このアプローチは、品質にこだわる一本気の技術屋にはなかなかできないことだと思うんですが、廣平さんの好奇心、本心が起動力になったのも見逃せません。このあたりは行き詰まってピンチに陥ったとき、その状況から抜け出るために私たちも肝に銘じたいところでもあります。

広告

それから宣伝や広告の面について。こちらはマス広告を行っているようには見えないし、野原工芸さんはSP(セールスプロモーション)など行っているのでしょうか?私の知る限りでは、webサイトやブログ、TwitterなどのSNSくらいしかSPも行っていないような。それもプロモーションというよりもあくまでさらっと告知程度。もちろん、TVや新聞などで取り上げられたり、インフルエンサーがこぞっての紹介があったりはしますが、どうなんでしょう?推察だけで物を言うことはできませんが、外部媒体を使用しての宣伝や広告はかなり少ない方だと思います。

中国のことわざに、

桃李成蹊とうりせいけい

桃李は何も言わないが、美しい花や実があるから人が集まり、下には自然に道ができる。徳ある者は自ら求めなくても、世人はその徳を慕って自然に集まり従うというたとえ。

史記(李将軍伝、賛)

というのがあります。

TV、新聞などのマス広告、それからダイレクトメールマーケティングにSNSマーケティングににと、セールス手法が世にありますが、あまり多くそして巧みに宣伝が来てうんざり気味な現代人にとっては野原工芸さんのようにファンの口コミによって自然と製品が広まっていく姿は新鮮な印象を与えるのではないでしょうか。

さて、ここでは少し野原工芸さんのマーケットについて。

老若男女問わずの幅広い世代の支持

野原工芸山の場合、シャーペンは小中高生、ボールペンは社会人といった風に人気の傾向が分かれるそうですが、幅広い世代の人々に指示されているというのも注目すべきところ。

例えば、シニア層の多い客層を持つビジネスや伝統的なビジネスというのは新しい世代にブランドや商品を継承してもらうというのは大きな課題です。これは個人的な意見ですが、私が伝統芸能を観に行くときにいつも思うのが、客層がシニアばかりということがよくあります。

ひとえに、伝統芸能の奥の深さや今に通じる本質的な価値も、多くの若者にとっては古い、何やら難しいし入口がないからと言えるのではないかと思いますが、彼らも芸能に関心がないわけではなく、分かりやすいエンタメに流れていっているだけ。

鬼滅の刃がその代表的なものかもしれませんが、エンタメ作品もいいものほど温故知新と言いますか、古くから伝承されている王道の型をしっかりと踏まえて新しい視点で創られているものです。しかし、ガチでその作品の構造や表現手法を学ぼうまではする人は少ないわけで、結果的に、伝統芸能の接点が少なくなり、世代間のギャップも広がるばかりだと思っています。

そこに来て、野原工芸さんの木軸ペンは木地師さんたちの伝統技術×日常的に持ち歩くリッチなペン、という組み合わせで世代問わず人々の心に刺さる形ができているのかなと思います。

目の肥えた大人をうならせて、かつ、小中高生にも人気。

その子どもたちが欲しいとせがんできたら、両親や祖父母も「学業のモチベーションになるかな?」とか、「これで日本の伝統技術の魅力に触れてもらえれば」と思って、そして何より「子どもたちの人生の記憶に残るようなプレゼントになるのなら?」と思って買ってしまうパターンもあると思います。

ただし、現状、本店で買うにも予約抽選、オンラインも予約販売でシャーペンなんて数分で完売してしまい、めちゃくちゃ手に入りにくいですが。

セカンダリーマーケット

こちらも冒頭で触れましたが、野原工芸さんの木軸ペンはブームもあってかなり入手困難です。ですので、中古品はまるでアート作品のようにフリマで高騰しています。新品や未使用に近いものだと定価の2倍、3倍で売れているのもありますし、本店やオンラインストアなどの正規品をプライマリーマーケットだけではなく中古市場のセカンダリーマーケットも成立していると思います。

また、人気、話題、入手困難、プレミアというのはさらにそのキーワードが人気を集めるもので、何十年も前から野原工芸さんのファンだったという方ではなく、ネットやyoutube、SNSの話題も参考に野原工芸さんの木軸ペンを買った今回の私のようなミーハー動機を持つ人も結構いるんじゃないかと思います。

日本ブランドという時代のうねり

23年11月に発表になってからしばらく経過したもののあまり日本国内で話題になっていませんが、国際的調査機関、世論調査のスペシャリストといわれるイプソスの調べによると「アンホルト-イプソス国家ブランド指数 (NBI: Anholt-Ipsos Nation Brands Index)」において日本は2023年首位になっているのをご存知でしょうか。

このNBI指数は、6つの指標(輸出、ガバナンス、文化、人材、観光、移住と投資)で評価がなされるようで、その中で日本は23年度世界で首位になったそうです。(22年は2位)

確かに、インバウンドに、株価にと、近年の国際的な日本ブランドブームはこれまでと比較すると異常なくらい。こういう時代のうねりのようなものも相まって、海外から日本の伝統工芸への注目がさらに高まる中、私たち日本人にとっても原点回帰で日本のものづくりが見直されているということもあるかもしれませんし、野原工芸さんの木軸ペンのブームはそこにマッチしていることもあるかもしれません。

まとめ

さて、今回は野原工芸さんの木軸ペンに触れての私なりの感想にお付き合いいただきありがとうございました。ペンのレビューは数多にありますので、そこから少し角度を変えて「今の人の心に刺さるところ」という視点でブランディングやマーケティングにおいてに私たちが学べることとして書いたつもりですが、いかがだったでしょうか。

どこが人の心に刺さるのか?という動機から入っての購入でしたが、実際に使用し始めて、これは沼ると思い始めていまして、先の予約注文で今度は再来年中学生になる子どものために、オンラインストアで画面にかじりついて待ってなんとか買うことができました。また手に届くまで半年くらいかかるのでしょうから、今から準備しておかないと子どもの入学に間に合わないので。。。今からサプライズでプレゼントしたときの子どもの顔を想像しつつなのですが、この待ち時間もまたひとつの幸せなんですよね。

1998年、三代目廣平さんがペンを始めたときからこれをねらっていたとは思えませんが、結果的に、買う前も、買った後から届くまでも、そして届いてから使用していくにあたってと、リッチな時間を与えている野原工芸さんは素敵ですよね。目立った広告宣伝もしないのに、ファンがファンを呼ぶというのも納得ですし、確かな木工芸とそれを支える皆様の演出力にこれからも学ばさせていただきたいと思います。

実店舗も見てみたいし、今度は競争率の激しい抽選予約に挑戦しようかな?

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